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37.帝国皇帝からの手紙

Auteur: 杵島 灯
last update Date de publication: 2025-06-29 20:20:06

「――我はこれよりそなたを息子と認めたりしない。どこへなりとも行って己の意のままに暮らせ。ただしその場合、帝国の地は二度と踏めぬと心得よ。己の血を裏切る代償が大きかったと嘆く日がこようとも、我はそなたを許すつもりはない。五歳のときからずっと『ジゼル様が、ジゼル様の』とうるさかったそなたはどうせ、父よりも、兄弟よりも、帝国よりも、花の国とその女王の方が好きなのであろう。父のことより『ジゼル様』の名を呼ぶ方が多い色ボケ息子ライナーなんか、いなくなったところで寂しくもなーんともないわい、ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう――」

「ブルーノ! その辺でいいでしょう!」

「まだ先は長いんだけどなあ」

 ジゼルを気にしながら真っ赤になって叫ぶライナーとは対照的に、ブルーノは涼しい顔だ。

「『息子と認めたりはしない』とか言っておきながら『色ボケ息子』なんて言う辺り、息子と認めないのか、息子なのか。さっぱり分からないのが父上らしいね。……それにしてもこの先は文字が滲みまくってるなぁ。父上も書面の上で泣くことはないだろうに。そもそもそんなに悲しいなら、ライナーを皇宮へ閉じ込めておけば良かったんだ……」
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  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   それから(後)

     ブルーノがドアノブに手をかけたとき、シュテファンの声が背中から追いかけてきた。「私も花の国へ行くぞ!」 「別に行かなくていいよ。お前は花の国が嫌いなんだろ? 無理すんなって」 「いや、それは……あ、そ、そうだ、お前だけ行かせたら、蜂蜜酒を飲んで泥酔して、帝国の恥さらしになるかもしれん! 見張りが必要だから私も行ってやる。分かったな? 絶対に、私も行くからな!」 「見張りなんか必要ないけど、しょうがないなあ。……じゃあさ」 兄の行動を見越していたブルーノは、駄目押しとばかりに部屋の外を自身の親指で示す。「今から父上の部屋に行くんだ。お前も一緒に来てくれよ」 「父上に用でもあるのか?」 「ああ。俺はこれから、今の話を父上にしに行くんだ」 ライナーに対し「我はこれよりそなたを息子と認めたりしない」という絶縁状もどきを送っておきながら、結局はずっとライナーのことを気にし続けた竜帝のことだ。「『花の国の女王陛下がご懐妊』という報告をもらってからこっち、父上はずっとそわそわしてたろ? いざ『ライナーの子が誕生した』って話をしたら、竜の姿で花の国へ飛んでいくかもしれない。だから俺とお前で引き止めたいんだ」 「……私とブルーノで父上を止められるだろうか」 「シュテファンと俺で止められなけりゃ、この世の誰も父上を止められないぜ。とにかく竜の姿を他国に見られるわけにはいかないんだ。父上には何としても正気に戻ってもらわなきゃならん」 「確かにな。分かった」 真面目な表情でうなずくシュテファンとともに歩きながら、ブルーノはくすりと笑う。「四年前に俺たちが花の国へ行ったときは、兄弟三人ともバラバラだったよな」 「あれは……ライナーを止めるために仕方なく出かけたからだ。本来なら花の国になんて行く必要はなかったんだ」 「そう言われたらそうなんだけどさ。だけどわざわざ花の国まで行ったっていうのに、往路は一人で馬車に揺られてたからさ。つまらなかったなあって」 「帰りは私が一緒だったろうが。忘れたのか」 「もちろん覚えてるよ。ライナーがいなくなって暗ーくなるお前の面倒を見てやるのは、ものすごく大変だったからなぁ」 「どの口が言うんだ? お前は花の国から持ちこんだ蜂蜜酒を飲んで、ベロベロになってるだけだったろうが」 「なんだ、ちゃんと覚えてるんだな。へへへ、今

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   それから(前)

    「シュテファン、いるかー?」 ノックと同時に扉を開くと、部屋の中では顰め面のシュテファンがブルーノを見ている。「どうしてお前は返事を待ってから扉を開けないんだ?」「俺とお前のあいだに隠すようなことなんてないからいいじゃないか。それより、見てくれよ。花の国から手紙が届いたぜ!」「……花の国。そんな小国のことなど、わが帝国からすればどうでもよいことだ。いちいち報告しなくていい」「おーおー、無理しちゃって」 ブルーノは手にした紙をひらひらとさせる。やわらかな花の香りが辺りにただよった。「無事に産まれたぞ」 その言葉を聞いた直後にシュテファンは喜色を満面に浮かべた笑みを見せる。しかしすぐに「ふん」と鼻を鳴らし、窓のほうへ顔を向けた。「それがどうした」 素っ気ないそぶりを見せているが、紅潮した頬は隠せていない。ただ、そこを追及すると彼は頑なになって手がつけられなくなるのをブルーノは知っていた。なにしろ産まれる前から、二十二年も一緒にいる兄のことだ。 それでブルーノは手元に視線を落とし、本当はすっかり覚えている文面を読み上げる。「黒い髪と青い瞳を持つ、とっても可愛い女の子だってさ。三人とも元気らしいから良かったよな」「確かに気をもんでただろうが、ライナー自身が何かをするわけじゃない。元気でいるのは当たり前だろうが」「三人ってのはライナーを含めてじゃないぜ。ジゼル陛下と、子どもたちのことさ」「……子どもたち?」「俺たちの姪は双子なんだってよ」「双子!」「そう。だから俺が準備した品も、お前が準備した品も、どっちも使ってもらえるってわけだ」「なっ……わ、私は別に、何も!」「はいはい、お前は何も用意してないんだよな」 シュテファンの部屋に子ども用品があふれているのを知っているのだが、敢えてそこには触れないままブルーノは手紙を懐にしまう。「それにしても、子どもが産まれて本当に良かった。しかもまだあの二人は結婚して四年だし、これからもまだ家族が増える可能性あるもんな」「ふん。貧乏な国の王族が増えたところで、国庫が圧迫されるだけだ」「だからお前も陰から支援してやってるんだろ? こないだの議会でも花の国の生産品を追加購入させようと――」「あれは別に花の国のためではない! 需要が高まっている品の輸入枠はもう少し拡大したほうが我が帝国のために良い

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   『竜の子』は花の国の王女様に恋してる(後)

     こんな無遠慮なことをするのは一人しかないし、そもそもライナーは自分に似ている声の聞きわけがちゃんとできる。慌てて引き出しを閉め、自分を呼んだ相手の方を振り返った。「ブルーノ」 続いてもう一人、いつも一緒にいるはずの彼の名を呼ぼうとしたが、ブルーノの後ろには誰もいない。「一人だけですか?」「そ。シュテファンにも声をかけたんだけど、『ライナーは帝国が恋しくなってすぐ戻って来るんだから、見送りの必要なんてない』って言われた」「ああ。父上も昨日、同じことを言ってましたよ」「あの二人の考え方ってそっくりだもんな」「竜帝と、次期竜帝ですからね」 ライナーと顔を見合わせて笑ったブルーノだったが、すぐにその顔を伏せ、ライナーの肩にこつんと額を当てる。「……お前、本当に行くんだな」 いつも陽気なブルーノの声が翳りを帯びている。彼のこんな声を聞いたのは、母のフラヴィが亡くなったとき以来だ。「……俺はさ。今までだって、これからだって、ずっと三人一緒にいられると思ってたんだ。なのにお前は俺とシュテファンを置いて、あんなに愛してくれた父上も置いて……一人で遠いところに行っちゃうんだな」 生まれる前から一緒だった彼にそう言われると、ライナーの心はずきりと痛む。 花の国へ行きたいと訴える反面、本当はライナーだって行っても良いのかをずいぶん迷った。 竜の子である自分が国を離れて良いのかという問題はもちろん、引き止める父や、二人の兄に背いて良いのか、何度も自問自答を繰り返したのだ。今だって本当は、頭の片隅でもう一人のライナーが囁いている。 ――父も、兄二人も、こんなに自分のことを愛してくれてるじゃないか。 今ならまだ引き返せる。一言「花の国へ行くのをやめる」と言えば、昨日までと変わらぬ日々を帝国で続けられるのだ。 その気持ちを読んだかのように、ブルーノが言う。「なあ。『やっぱり帝国に残ることにした』って言えよ。そうしたら俺が、みんなに伝えて来てやる。荷物の運び込みだって手伝うよ。だから、だからさ」 いつも朗らかなブルーノの顔が珍しく歪んでいた。まるでライナー自身が泣きそうになっているかのようだ。 ライナーは自分と同じ服を着た背中にそっと手を回し、自分と同じぬくもりを感じながら言う。「……ごめんなさい」 迷って、迷って。 それでも最後にライナーが出す答

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   『竜の子』は花の国の王女様に恋してる(前)

     今日の時計はどうしてこんなにゆっくり進むのだろう。もしかしたら壊れているのではないか。 疑いながらライナーは時計をじっと見つめ、普段通り動く針を眺めて息を吐く。 この動作を今朝から何度も繰り返している。 自分でも可笑しいとは思っているけれど、どうにも緊張で落ち着かない。 だって今日はライナーが帝国を発つ日だ。五年前から憧れていたときがもうすぐそこまでやってきているのだから、冷静でいろと言われても無理からぬ話だった。 ここへ至るまでには本当にいろいろなことがあった。 花の国で会った美しい従姉に「待っているから、必ず来て」と言われたライナーは、帝国に戻ってすぐ父に「花の国で暮らしたい」と訴えた。 しかし父である竜帝は渋い顔で首を横に振るばかり、どうあっても許可を出そうとはしてくれなかった。 ライナーは首の下にある鱗をそっと押さえる。 竜帝が花の国行きを反対する理由の一つは、ライナーが『竜の子』なせいだ。 帝国の支配者が竜だというのは他国に絶対知られてはならない秘密。体の鱗から芋蔓式に父竜の秘密まで知られてしまう可能性を考えると、おいそれと竜の子を他国に出せないのは道理だ。 だが、今は亡き母のフラヴィは生前、「花の国のあの父娘――私の兄と姪なら絶対に大丈夫よ。秘密は必ず守ってくれるわ」と何度も竜帝に請け合っていた。だからきっと大丈夫だと、ライナーも信じている。 そして反対のもう一つの理由は、竜帝が家族を愛しすぎていること。 実を言えば花の国へ行けなかったのは、竜の子にまつわる問題よりも竜帝のワガママの方がずっと大きい。「こんな愛らしい子が三人もいると知ったら花の国は全員を欲しがるに違いない! 一人でもお断りだというのに、三人など冗談ではないわ! 駄目だ駄目だ! 花の国になど行かせるものか!」 そう叫ぶ竜帝はただの駄々っ子で、息子のライナーの方こそが丁寧に、根気強く、父を説得する必要が生じるほどだった。 竜帝が渋々ながらも頷いてくれたのは、ライナーの努力と、母の遺言のおかげだ。 自身が遠方へ嫁ぎ、三人の子を産み、そのうちの一人が生国へ戻ると夢で見ていた母のフラヴィは、自身が世を去ってからもライナーの味方をしてくれていたのだ。 花の国から来た母を思いながら、ライナーは机の引き出しをそっと開ける。ここには一枚の絵が入れたま

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   47.花の国の女王様と『竜の子』

     城の人々も、もしかしたらジゼルとライナーの変化には気づいているかもしれない。だけどまだ何も言わない。ジゼルもライナーも言っていない。二人にはまず、最初に報告すべき人がいるからだ。 どちらからともなく歩き出し、ジゼルとライナーは二人だけで庭園に向かった。 いつも女王ジゼルのそばにいて、一番近くで女王を護るのは騎士ライナー。それがライナーの夢だったのだとは先日聞いたばかり。 傍らを歩く花の国随一の腕を持つ騎士を見上げ、微笑み、ふとジゼルは気が付いた。「ライナー、胸元のボタンが取れかかっているわ。ほら、ここ」「あ、本当ですね。このままだと落ちて失くしてしまうかもしれません」 ボタン一つとはいえ無駄には出来ない。ライナーは小刀で器用にボタンを外し、腰に下げた物入れへ仕舞う。 そのときジゼルはライナーの服の間に黒いものを見た。両の鎖骨の間から少し下あたり。初めは汚れかと思ったのだが何か違うような気がした。不思議に思って顔を近寄せ、ジゼルは息をのむ。 ライナーの胸には親指の先ほどの大きさをした黒い鱗が上下に四枚ずつ、合計で八枚並んでいたのだ。「ライナー……それ、どうしたの……?」「ああ……」 問われたライナーはジゼルの視線の先を追って理解したらしい。少し恥ずかしそうに笑う。「ご覧になるのは初めてでしたね。これは生まれたときからあるんです」「ど、ど、どうして?」「どうしてって、父が竜だからです。僕は半分が人間で、半分が竜なんですよ」「……竜……!?」 あんぐりと口を開けるジゼルを、ライナーは盛んに瞬きしながら見つめる。「他国には絶対に内密の話ではあるのですが、帝国の皇帝は黒い竜なんです。だから竜帝と呼ばれていますし、僕たちも『竜の子』と呼ばれるんです、け、ど……」 ライナーの声は徐々に小さくなって途切れ、いっとき辺りは静かな時間が支配する。 やがてライナーはもう一度、今度は恐る恐るといった具合に口を開いた。「……フラヴィは、義姉様に、話さなかったのですか……?」「……話してくださったわ。……でも、まさか……」 竜帝と呼ばれる存在が、本当に竜だとまでは信じていなかった。 黙ってしまったジゼルをライナーはしばらく見つめていた。やがて、はだけた騎士服の間をそっと寄せてうつむき、小さな声で言う。「僕、帝国へ戻りましょうか」「駄目よ」

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   46.残った一人

     ライナーたちが花の国に到着した翌日は、当の三人の誕生日でもあった。 普段ならばこの日の花の国は、王宮で王弟の生誕を祝う宮廷舞踏会が開かれる。しかし今回は来客があるということで舞踏会は後日開催にし、当日は王城の一角で内々の宴が催された。 シュテファンは、「十八の誕生日は成人となる重要な日だ。それをまさか他国で迎えることになるとは……」 と渋い顔をしていたが、ライナーに、「でしたら僕の邪魔をせず、帝国で大人しくしていれば良かったんです」 と言われて黙る。 そこへ割り込んだのが、蜂蜜酒のグラスを片手に持つブルーノだ。「まあまあ、ライナー。お前も“大好きなジゼル様”のことばっかり見てないで、少しはシュテファンや父上の気持ちも考えてやれって。もっと視野を広く持たないと、このあとジゼル様のご迷惑になるぞぉ!」「ちょっ、ブルーノ!」「あははははは! ほらほら、シュテファンも。そんな不機嫌そうな顔してないで、今は花の国の滞在を楽しもうぜ! 何せ今回が兄弟三人で過ごす最後の誕生日になるんだろうしさ!」「……おい」 余計なことを言ってライナーとシュテファンに睨まれるブルーノだが、彼に気にした様子は見られない。 鼻歌を歌いながら手にしたグラスの中身を口にして「お」と声を上げる。「さっきのも美味かったけど、俺はこっちの方が好きだな。すっきり苦くて、後からくる甘さが絶妙だ」 途端にライナーの目がきらりと光る。まるで獲物を見つけた獣のようだとジゼルは思った。「いい舌をしていますね、ブルーノ。それはまだ試作品なのですが、試飲をした人たちからも評価が高い品です」「なるほどなあ。……うん、うまい。こりゃ人気が出そうだ」「さすがは帝国の高貴な方。良いものはちゃんと分かっていますね」 追従する調子で言ったライナーが、続いて声をぐっと潜める。「ただ、少々問題があるんです。これを量産するには新たな施設が必要となりそうで」「うん? 施設なんかさっさと作りゃいいじゃないか」「そう簡単にはいきませんよ。建設費だって馬鹿にならないんです。ああ、せめて大口購入の当てでもあれば、先行投資ということで予算がおりるかもしれないのに」「……お前、俺に買わせようとしてるな?」「ばれましたか」「ばれるに決まってるだろうが。――で、どのくらいの予約数が必要なんだ

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   10.王女と王子

     こうして王女ジゼルの家族に、王子ライナーが加わった。 ライナーは賢く、武術も得意だった。教えを施す者たちが「王子殿下はとても優秀でいらっしゃいます」と言うたび、ジゼルは誇らしく、嬉しい気持ちになった。 また同時にジゼルもいっそう勉学に励むようになったのは、「義弟は優れているのに義姉の方はさっぱりだ」と言われないようにするためだ。おかげでジゼルに対する周囲の評判は良く、ライナーからも「義姉様はすごいですね」と尊敬の眼差しをもらえている。次期国王としてだけでなく、姉としての面目もたれているようで、ジゼルとしては上々の気分だった。 ただ一点。ジゼルがラ

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   9.恋が実った話

    「そのきっかけがあの庭園よ。ある日ピエールは『ようやく思い通りの薔薇ができました。私が改良した薔薇をどうか見てください』と言ってコリンヌを庭園に連れて行ったの」「義父様ご自身が、薔薇の改良をなさったんですか?」「そうよ。黄と紫の絞り模様を持つ小ぶりな薔薇をつくって、『愛しの君』という名前をつけたの。――ピエールが大好きなコリンヌは、金の髪と紫の瞳を持つ女性だったから」 目を丸くするライナーに向け、ジゼルは微笑む。「その薔薇、『愛しの君』を見て、お母様はお父様と結婚すると決めたのですって。周囲の方々もお父様の熱意に絆されて、二人のことをお許しになったそうよ」 くす

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   4. 『竜の子』

     五年前にライナーと会ったとき、ジゼルはフラヴィにも会っている。 そのときフラヴィが教えてくれた話、それが竜と『竜の子』に関する話だ。「事情は分かったわ、お父様。ですからこのお話は終わりにしましょう」「終わりにしてもいいのかな?」「ええ、いいわ」 『竜の子』にまつわる話を改めてする必要などない。(あんなの、帝国の皇帝が最低な人物だというだけの話だもの) ジゼルはどことなく不安そうな表情のライナーに向けて笑ってみせる。この国に来たからにはライナーにもう辛い思いはさせない。「安心して、ライナー。これからは私たちがあなたを守ってあげるから」「……義姉様……

  • 花の国の女王様は、『竜の子』な義弟に恋してる ~小さな思いが実るまでの八年間~   3.ジゼルの義弟、ライナー

    「僕、明日になったら国に向けて出発するんです。でも本当はもっとここにいたいです」 訴える瞳は真剣だった。このままだと従弟は「帰りたくない」とぐずり、周囲に迷惑をかけるかもしれない。 そう思ったジゼルは腰を屈めて従弟と視線を合わせた。ここは自分がきちんと言い聞かせるべきだ。何しろジゼルは従弟より四歳も年上の“お姉さん”なのだから。「駄目よ。あなたや叔母様が予定通りに戻らなかったら、国同士の問題になるかもしれないの。そうしたら、みんなが困るわよね」「……はい……」「では、ちゃんと帰らなくてはいけないわ」 夕日を浴びる従弟はうつむき、肩を落とす。その小さい姿はひどく哀愁を漂わせていて、

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